医薬品研究における大きな進展として、オハイオ州立大学の科学者たちは新薬開発の方法を根本から変える可能性を持つ人工知能システムを開発した。
この新しい生成AIモデル「DiffSMol」は、同大学の生物医学情報学およびコンピューターサイエンス・工学部のシャ・ニン教授率いるチームによって開発された。DiffSMolは、タンパク質標的に結合する分子である既知のリガンドの形状を解析し、それらの形状を条件に、結合特性を強化した全く新しい3次元分子を生成する。
「よく知られた形状を条件として利用することで、従来の化学データベースには存在しない、類似した新規分子を生成するようモデルを訓練できます」とニン教授は説明する。このシステムの有効性は顕著であり、薬剤開発を加速させる可能性を持つ分子の生成において、DiffSMolは61.4%という高い成功率を達成。従来の研究手法が約12%の成功率にとどまっていたのに対し、圧倒的な成果を示した。
研究チームは、細胞周期を調節しがんの増殖を阻害するCDK6(サイクリン依存性キナーゼ6)や、アルツハイマー病の進行抑制を目的とした治療に用いられるNEP(ネプリライシン)を標的とした分子のケーススタディを通じて、DiffSMolの能力を実証。AIが生成した分子は高い有効性を示す可能性が高く、DiffSMolは結合親和性でベースライン手法を13.2%上回り、形状ガイダンスを組み合わせた場合は17.7%の向上を記録した。
このブレークスルーは、FDA(米食品医薬品局)が医薬品開発におけるAIの新たな規制枠組みを策定する中で発表された。2025年1月、FDAは「医薬品および生物製剤の規制判断を支援するための人工知能の利用に関する考慮事項」と題したドラフトガイダンスを公表し、医薬品の安全性・有効性・品質に関する規制判断を支援するAIの活用について推奨事項を示した。
従来の薬剤開発は発見から市場投入まで約10年を要するが、DiffSMolのようなAI活用手法により、この期間が大幅に短縮される可能性がある。研究チームはDiffSMolのコードを他の科学者にも公開しているが、現時点では既知リガンドの形状に基づく分子しか生成できないという制約があり、今後の研究でこの課題を克服したいとしている。