欧州のAI分野を大きく前進させる動きとして、NVIDIAとドイツテレコムは、欧州大陸初となる産業用AIクラウドインフラをドイツ国内に構築するための戦略的パートナーシップを発表した。
2025年6月13日に発表されたこの協業により、両社は「AIファクトリー」と呼ばれる、製造業向けAIアプリケーションの加速を目的とした専用クラウドコンピューティング環境を創出する。運用はドイツテレコムが担当し、安全かつ主権性の高いインフラを提供しつつ、欧州のデータ保護基準の遵守を徹底する。
初期段階では、NVIDIA DGX B200システムやRTX PROサーバーを含む1万基のNVIDIA Blackwell GPU、さらにNVIDIAのネットワーキングおよびAIソフトウェアが導入される予定だ。この規模のAIインフラ投資は、ドイツ国内で過去最大となる。
NVIDIA創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏は「AI時代において、すべての製造業者は“モノを作る工場”と“それを動かす知能を生み出す工場”の2つが必要です。欧州初の産業用AIインフラを構築することで、同地域のリーディングカンパニーがシミュレーション主導のAI製造を推進できるよう支援します」とコメントしている。
このAIクラウドにより、欧州の製造業者は設計、エンジニアリング、シミュレーション、デジタルツイン、ロボティクスといった分野でのアプリケーション開発を加速できる。BMWグループ、マセラティ、メルセデス・ベンツ、シェフラーなどの企業は、すでにNVIDIAの加速アプリケーションを活用し、製品ライフサイクル全体の変革を計画している。
ドイツテレコムCEOのティモテウス・ヘットゲス氏は「欧州のテクノロジーの未来には、散歩ではなく全力疾走が必要です。今こそAIの機会をつかみ、産業を革新し、世界のテクノロジー競争でリードする地位を確立しなければなりません」と強調した。
今回のパートナーシップは、AI市場が初期の熱狂期から実践的な導入段階へと成熟しつつあることを示している。この産業用AIクラウドは、EUが支援し2027年の稼働を目指す「AIギガファクトリー」構想(10万基のGPUを活用)への前哨戦とも位置付けられている。現行の産業用AIクラウドは、遅くとも2026年までに実装が完了する予定だ。