米国の製造業生産性は過去約20年にわたり低下傾向にあるが、ゴールドマン・サックスのアナリストは、この流れを逆転させる最も現実的な解決策は関税ではなく人工知能(AI)であると考えている。
ゴールドマン・サックスのアナリストは、関税ではサプライチェーンや労働コストを十分に引き下げて生産拠点の国内回帰(リショアリング)を促進することはできないと主張している。その代わり、製造業の生産性向上の最有力な原動力は自動化の拡大であるとし、米国は製造業で優位性を獲得するためにAIや自動化技術に注目すべきだと提言。技術の進歩は工場投資の促進と工場自動化技術の向上という二重の効果をもたらし、国内製造業の生産性を高める可能性があるという。
「イノベーションの加速、特に近年のロボティクスや生成AIの進展が、長期的な製造業生産性の停滞を反転させる最も有力なきっかけとなるだろう」と、ゴールドマン・サックスのアナリストであるジョセフ・ブリッグス氏らはレポートで述べている。米国製造業の減速を示す証拠は増えており、米国国勢調査局のデータによれば、2024年4月の耐久財新規受注は前月比6.3%減少。さらに、全米供給管理協会(ISM)の製造業購買担当者指数も3月以降低下し、縮小傾向を示している。
こうした生産性の課題は、過去20年にわたる製造業全体の減速の一部であり、これは世界金融危機後の投資抑制や、2000年代初頭に見られた技術進歩の鈍化が要因となっている。
米国は、工場運営へのAI導入において他の製造大国に後れを取っている。ボストン・コンサルティング・グループ・ヘンダーソン・インスティテュートの最新レポートによると、米国の製造業者でAIの複数の活用事例があると回答したのは46%にとどまり、世界平均の62%、中国の77%を大きく下回っている。「これこそが、コスト競争力を保ちながら生産性向上を牽引しうる重要な技術の一つだと考えている」とブリッグス氏はFortune誌に語った。
こうした可能性がある一方で、アナリストらは製造業の減速が完全に反転するとは予測していない。「このダイナミズムが大きな原動力となるかどうかは、実際に起きるのを見届ける必要がある」とブリッグス氏は指摘。ゴールドマン・サックスのアナリストも、自動化が米国製造業生産性向上の最大の機会を提供する一方で、製造業全体の減速(これは世界的かつ歴史的にも異例の現象)を解決するには至らないと認めている。世界的な生産性向上には、AIやロボティクスの大規模な進歩と普及が不可欠だ。「製造業の生産性と成長を大きく押し上げる主因は、イノベーションの急速な加速だろう」とブリッグス氏は説明し、「こうした技術進歩の転換点を予測するのは非常に難しい」と付け加えた。
2025年までに、製造業におけるAI市場規模は2024年の59億4,000万ドルから85億7,000万ドルに拡大すると予測されており、年平均成長率は44.2%に達する見込みだ。AIは2035年までに生産性を40%向上させるとされており、重要業務の自動化、不良品検出、品質管理の強化などを通じて、よりスマートで効率的な製造プロセスへの変革が期待されている。