ウィーン大学を中心とする国際研究チームは、量子コンピューティングと人工知能の分野で大きなブレークスルーを達成し、小規模な量子コンピュータであっても機械学習アプリケーションに実用的な利点をもたらすことを実証した。
この研究は2025年6月8日付でNature Photonics誌に掲載され、新規のフォトニック量子回路を用いて量子強化カーネルベース機械学習アルゴリズムを実装した。研究チームは、彼らの量子アプローチが、ガウスカーネルやニューラルタンジェントカーネルといった最先端の古典的手法よりも、2値分類タスクにおいて優れた性能を示すことを明らかにした。
「特定のタスクにおいて、我々のアルゴリズムは古典的手法よりも誤りが少ないことが分かりました」と、プロジェクトを率いたウィーン大学のフィリップ・ヴァルター教授は説明する。論文の第一著者であるイン・ジェンハオ氏も「現存する量子コンピュータでも、最先端技術を超えずとも十分な性能を発揮できることを示唆しています」と付け加える。
実験にはイタリア・ミラノ工科大学で構築された量子フォトニック回路が用いられ、イギリスのQuantinuum研究者が最初に提案した機械学習アルゴリズムが実装された。このシステムは、量子干渉と単一光子コヒーレンスを活用し、データ分類タスクで高精度を実現している。
精度向上だけでなく、このフォトニック手法は大幅な省エネルギー効果ももたらす。機械学習アプリケーションがますます複雑化・高エネルギー化する中、量子フォトニックプロセッサは持続可能な代替手段となり得る。「今後、機械学習アルゴリズムのエネルギー需要が高まりすぎて実用困難になる可能性を考えると、これは極めて重要な意味を持ちます」と、共著者のイリス・アグレスティ氏は強調する。
本研究は量子コンピューティングの枠を超え、量子効果の恩恵を受ける特定タスクを特定したことで、より高性能かつ省エネルギーな新たな古典アルゴリズムの着想にもつながる可能性がある。これは、理論的な量子計算と現実世界での実装のギャップを埋め、AI分野における実用的な量子アドバンテージ実現への大きな一歩となる。