研究室の自動化に革命的なアプローチがもたらされ、科学者による新材料の発見方法が大きく変わろうとしている。ノースカロライナ州立大学の研究者たちは、従来技術の少なくとも10倍のデータを収集できる自律型ラボを開発し、材料発見のスピードを飛躍的に高めている。
この成果は『Nature Chemical Engineering』誌に掲載されており、化学混合物をシステム内で連続的に流しながらリアルタイムで監視する「動的フロー実験」を活用している。これは、反応が完了するまで待ってから分析を行う従来の定常状態法とは大きく異なる手法だ。
「私たちは、化学混合物をシステム内で連続的に変化させ、リアルタイムで監視する動的フロー実験を活用した自律型ラボを開発しました」と、NC州立大学化学・バイオ分子工学部のALCOA教授であり本研究の責任著者であるミラド・アボルハサニ氏は説明する。「これは、反応の“スナップショット”を1枚撮るのではなく、反応の“映画”全体をリアルタイムで見るようなものです。」
このシステムは稼働やサンプルの特性評価を止めることなく、各実験の終了を待つのではなく0.5秒ごとにデータを取得する。こうした連続運転により、ラボの機械学習アルゴリズムは従来よりはるかに多くの高品質な実験データを受け取り、予測精度が向上し、問題解決能力も加速する。
スピードだけでなく、環境負荷の大幅な軽減も実現している。「必要な実験数を減らすことで、化学薬品の使用量や廃棄物を大幅に削減し、より持続可能な研究活動を推進できます」とアボルハサニ氏は述べる。「材料発見の未来は、単に速さだけでなく、いかに責任を持って到達できるかも重要です。」
この技術のインパクトは、地球規模の課題解決にも及ぶ。自律型ラボがあれば、クリーンエネルギーや新しいエレクトロニクス、持続可能な化学物質のための画期的な材料を、従来は数年かかっていたところを数日で発見できる可能性がある。実際のテストでは、動的フローシステムが学習後の最初の試行で最適な材料候補を特定し、その効率性を示した。
この技術は、AIやロボティクスによって従来法の10〜100倍のスピードで発見を加速する「自律科学」への大きな潮流の一部だ。今後これらのシステムが進化を続ければ、エネルギー、持続可能性、先端材料開発といった社会の喫緊の課題に対し、より迅速なソリューションをもたらすことが期待されている。