英国の金融規制当局が、テクノロジー大手NVIDIAとの戦略的パートナーシップを通じて、英国を金融分野におけるAIイノベーションの最前線に押し上げるため、大胆な一歩を踏み出した。
金融行動監視機構(FCA)は、「スーパー・チャージド・サンドボックス」プログラムの開始を発表。この取り組みにより、金融機関は管理された環境下で人工知能の安全な実験が可能となる。従来のNayaOneが提供するデジタルサンドボックス基盤を拡張し、NVIDIAの高速計算プラットフォームおよびAIエンタープライズソフトウェアスイートによって、計算能力が大幅に強化された。
FCAのチーフ・データ・インテリジェンス・インフォメーション・オフィサー、ジェシカ・ルス氏は「AIのアイデアを試したいが、その能力が不足している企業を支援できるコラボレーションです。私たちは、AIを活用して市場と消費者に利益をもたらし、経済成長を後押しします」と述べている。
このサンドボックスは、プライバシーや不正リスク、規制遵守への懸念から高度なAIツールの導入に苦慮してきた金融機関にとって、重要なギャップを埋めるものとなる。多くの銀行は、OpenAIやGoogleなどが提供する大規模言語モデルを利用する際、データが海外施設に送信されることで生じるセキュリティ上の脆弱性を懸念し、導入に慎重だった。
この取り組みは、英国政府がAI分野の能力強化を進めるなかで発表された。ロンドン・テック・ウィークの期間中、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOはキーア・スターマー首相と共に登壇し、「英国には世界でも有数の豊かなAIコミュニティがあるが、十分な計算インフラが不足している」と指摘。政府は2030年までに約10億ポンドをAI研究用計算資源に投資する方針を示している。
スーパー・チャージド・サンドボックスの申請受付はすでに開始されており、選ばれた企業は2025年10月から実験を開始できる予定だ。このプログラムは、2025年9月に開始予定のFCAの新サービス「AIライブテスティング」とも連携し、消費者向けや市場向けAIモデルの本格導入を目指す企業をさらに支援する。