キャピタル・ワンは、独自開発のマルチエージェントAIアシスタント「Chat Concierge」により、自動車小売業界の在り方を刷新しています。このシステムは、競争が激化する自動車市場において、販売店の業務効率化と顧客体験の向上を同時に実現することを目的としています。
15か月にわたる開発期間を経て2025年初頭にローンチされた本システムは、キャピタル・ワンの組織構造に着想を得て、複数の専門AIエージェントが連携して動作します。テクノロジー部門SVP兼AIファウンデーション責任者のミリンド・ナファデ氏は「キャピタル・ワンの組織運営からインスピレーションを得ました」と語ります。システムには、社内ポリシーを学習した評価エージェントが搭載され、他のエージェントの動作を監視し、問題があれば介入できる仕組みも備えています。
従来のチャットボットが単に連絡先情報を収集するだけだったのに対し、Chat Conciergeは自然な会話で顧客とやり取りし、車両の機能やファイナンスオプション、下取り価格など複雑な質問にも対応します。また、販売店のCRMシステムと直接連携して試乗予約を行うことができ、24時間365日稼働します。ナファデ氏は「24時間体制でエージェントが対応でき、たとえば深夜に車が故障してもチャットがサポートします」と述べています。
この技術は、現代の自動車小売業界が直面する重要な課題の解決を目指しています。車両価格の高騰による購入負担の増加や、在庫増加と販売減少という状況下で、販売店はオンライン問い合わせを効率的にショールーム来店につなげる必要があります。キャピタル・ワン金融サービス部門プレジデントのサンジブ・ヤジニク氏は「販売店は極めて効率的な運営が求められ、1人たりとも顧客を逃してはならない」と強調します。
Chat Conciergeは、MetaのオープンソースLlamaモデルをベースに、キャピタル・ワンの豊富な自動車ローンデータやAuto Navigatorプラットフォームの独自データでカスタマイズされています。導入前には複数回のテストを通じて強固なガードレールも設けられました。初期導入店舗では、顧客エンゲージメントと質の高いリードが55%向上するという顕著な成果が報告されています。
今後キャピタル・ワンは、このエージェント型AIのアプローチを旅行サービスなど他の事業分野にも拡大していく計画です。チーフサイエンティスト兼エンタープライズAI責任者のプレム・ナタラジャン氏は「これは我々の最初の足掛かりです。社内でも多くのユースケースに拡張できると考えています」と語っています。