米国における人工知能(AI)の規制権限を巡る争いは、6月25日(水)、トランプ大統領の包括的な予算法案に盛り込まれた論争的な条項を巡り、上院の共和党・民主党指導部が激しく対立する事態となった。
議論の中心となっているのは、州によるAIシステム規制を10年間禁止する連邦モラトリアム案だ。この条項は、上院商業委員長のテッド・クルーズ氏によって書き換えられ、420億ドル規模の「ブロードバンド公平性・アクセス・展開(BEAD)」プログラムを通じた連邦ブロードバンド資金の受給条件として、州がAI規制禁止に従うことが求められる内容となっている。
2024年の共和党全国大会で演説したチームスターズ組合のショーン・オブライエン会長は、25日(水)、議会に対しこの提案の撤回を求める強い内容の書簡を提出。「これは純粋に、大手テック企業への利益供与であり、規制のない空白地帯で誰にも責任を問われずに経済的価値を享受し続けることを許すものだ」とオブライエン氏は指摘し、特に労働者の監視や自動運転車のリスクについて懸念を表明した。
GoogleやOpenAIなどの主要AI企業は、州ごとに異なる規制がイノベーションを阻害するとしてモラトリアム案を支持している。商務長官のハワード・ルトニック氏もSNSで「50州それぞれの法律による混乱を終わらせ、米国企業が反イノベーション的な政治家の干渉なく最先端技術を開発できる」と賛意を示した。
しかし、反対の声も高まっている。州の司法長官(与野党双方)、市民自由団体、さらには一部の上院共和党議員も反対に回った。上院商業委員会の民主党筆頭理事であるマリア・キャントウェル議員は、「この条項は、州に消費者保護と地方の重要なブロードバンドインフラ拡充のどちらかを選ばせるものだ」と批判した。
AI開発の急速な進展を背景に、今回の議論の重要性は増している。2025年だけでも、州議会ではAI関連法案が1,000件以上提出され、28州で少なくとも75の新たな規制が成立した。批判派は、10年に及ぶ規制停止が、今後明らかになるAIの新たなリスクから消費者を無防備にする恐れがあると警鐘を鳴らす。
今週、上院で重要な採決が予定されており、この条項の行方は、今後数年間にわたる米国のAI規制の枠組みを大きく左右することになりそうだ。