トランプ政権は、バイデン政権が導入を予定していた「AI拡散枠組み」規則を、施行予定日のわずか数日前となる5月15日を前に正式に撤回した。これにより、米国の先端AI技術の世界的な流通管理方針が大きく転換されることとなる。
バイデン政権下で2025年1月に発表された同規則は、高性能AIチップの輸出を三層構造で管理する内容だった。第1層の17カ国と台湾には無制限でチップを供給し、第2層の約120カ国には輸入上限を設け、第3層の中国、ロシア、イラン、北朝鮮などには技術の提供を完全に禁止していた。
しかし、米商務省当局者は「三層構造は実効性に乏しく、米国のイノベーションを阻害し、戦略的パートナーとの外交関係を弱体化させる」と指摘。NvidiaやOracleなど主要IT企業も、サプライチェーンの分断や米企業の競争力低下につながると批判していた。
トランプ政権は現在、二国間の政府間合意を軸とした新たな枠組み作りを進めている。この方針は、トランプ大統領が重視する「個別国との取引」に沿ったもので、米国製AIチップへのアクセスを通商交渉の強力なカードとする狙いがある。ハワード・ラトニック商務長官も、輸出管理を通商協議に盛り込む意向を示していた。
商務省報道官は「トランプ政権は、信頼できる外国と共に米AI技術の大胆かつ包摂的な戦略を追求しつつ、敵対国への流出は確実に防ぐ」とコメント。新方針は策定中だが、先端計算技術を懸念国に渡さないという基本姿勢は維持される。
この政策転換は、中国のAI分野での急速な進展への警戒感が高まる中で行われた。特に、DeepSeek社のチャットボット「R1」の登場は「スプートニク・モーメント」とも評され、従来の米国規制の限界を浮き彫りにした。米下院中国共産党特別委員会も最近、輸出管理の強化と実効性向上を求める報告書を公表している。