私たちが高度なAIシステムに依存することの環境コストが、研究者によって明らかにされた。2025年6月19日に『Frontiers in Communication』誌で発表された新たな研究によると、推論機能を備えたAIモデルは、同じ質問に回答する際、より単純なモデルと比べて最大50倍もの二酸化炭素を排出する可能性がある。
本研究は、ミュンヘン応用科学大学のMaximilian Dauner氏を中心とするチームによって実施され、パラメータ数が7億から720億に及ぶ14種類の大規模言語モデル(LLM)が評価された。数学、歴史、哲学、抽象代数学など多岐にわたる1,000問のベンチマーク問題を用いてテストが行われた。
調査の結果、推論型モデルは1問あたり平均543.5トークンの「思考トークン」を生成したのに対し、簡潔なモデルはわずか37.7トークンだった。これらの追加的な計算処理は、直接的にエネルギー消費とCO2排出量の増加につながる。最も高精度だったのは、推論機能を持つパラメータ数700億のCogitoモデルで、84.9%の正答率を記録したものの、同規模でより簡潔な回答を生成するモデルと比べてCO2排出量は3倍に達した。
「現時点では、LLM技術には精度と持続可能性の明確なトレードオフが存在します」とDauner氏は説明する。「CO2排出量を500グラム未満に抑えたモデルで80%を超える精度を達成したものはありませんでした。」
また、質問の内容も排出量に大きな影響を与えた。抽象代数学や哲学のような複雑な推論を要する質問では、高校レベルの歴史のような単純なトピックと比べて、最大6倍もの排出量増加が見られた。
研究チームは、利用者が賢明な選択をすることでAIのカーボンフットプリントを抑制できると指摘する。例えば、DeepSeekのR1モデル(パラメータ数700億)で60万問に回答させた場合、ロンドン~ニューヨーク間の往復航空便1回分に相当するCO2が排出される。一方、AlibabaのQwen 2.5モデル(パラメータ数720億)は、同程度の精度で約190万問に回答しても同じ排出量にとどまる。
「もし利用者がAIによる出力ごとのCO2コストを正確に把握できれば、AI技術の利用タイミングや方法についてより慎重になるはずです」とDauner氏は結論付けている。研究チームは、今後AI技術が日常生活にますます浸透する中で、より情報に基づいた環境配慮型の利用が広がることを期待している。