医療分野における人工知能の大きな進展として、Insilico MedicineがAIで設計した新薬「レントセルチブ」が、特発性肺線維症(IPF)の治療において有望な有効性と安全性を示した。IPFは世界で約500万人が罹患する慢性肺疾患である。
レントセルチブ(旧称ISM001-055)は、標的分子と治療化合物の両方が生成AI技術によって発見された初の治験薬である。この薬剤は、InsilicoのAIプラットフォーム「PandaOmics」によって肺線維症の発症に重要な役割を果たすと特定された新規標的分子「TNIK(TRAF2 and NCK-interacting kinase)」を阻害することで作用する。
最近完了した第IIa相臨床試験では、レントセルチブの最高用量(1日60mg)を投与された患者で、努力性肺活量(FVC)が平均98.4mL改善したのに対し、プラセボ群では平均20.3mLの低下がみられた。これらの結果は2025年6月3日に『Nature Medicine』誌で発表され、米国胸部学会国際会議でも報告された。これはAI主導の創薬アプローチが臨床的に初めて実証された画期的な事例となる。
レントセルチブの開発は、製薬研究におけるAIの卓越した効率性を示している。Insilicoは自社の「Pharma.AI」プラットフォームを活用し、従来2.5〜4年かかっていた新薬探索期間をわずか18ヶ月に短縮。通常は数千化合物をテストするところ、わずか60〜200化合物の検証で済ませている。
この有望な結果を受け、Insilico Medicineは規制当局と協議を開始し、より大規模なピボタル試験の実施を目指している。もし成功すれば、レントセルチブはAIによって発見された初の治療薬として患者に届けられる可能性があり、現在FDA承認薬が2剤(ピルフェニドン、ニンテダニブ)しかないIPF治療の選択肢を大きく変えることが期待される。
Insilico Medicine創業者兼CEOのアレックス・ジャヴォロンコフ博士は「今回の結果は安全性と有望な有効性の両方を示しており、より大規模かつ長期の試験が必要であることを示唆しています。これはパラダイムシフトであり、AIがより迅速かつ低コストで治療法を生み出す変革的な可能性を強調するものです」と述べている。